2016年10月20日

不可解な表情を見せる

思わず苦笑いを漏らした私に、斎藤くんが。


「だってそうでしょ?私の為なんて誰が決めたの?私はそんなこと望んじゃいない。勝手な理由付けをして、勝手に私のそばを離れて・・・。もし、私の幸せを望んでのことなのだとしたら、それは絶対に正しい選択じゃない。」

「沙月さん・・・」

「私は多くのことを望んでるわけじゃないの。ただ、そばにいて欲しかっただけ。心が満たされていたら、どんなことだって頑張っていこうって気持ちになれる。もちろん壁にぶつかる時だってあるけど、それでも大事な人が自分を支えてくれたならきっとどんな困難だって乗り越えて行けると思うの。
・・・なのに、それを願うのはいけないことなの?」


思わず畳み掛けるようにそう言い放った私を斎藤くんは何とも言えない複雑な表情で見詰めていた。

そこに浮かぶ感情はどんな種類のものなのだろう。
私にはそれを読み取ることはできない。

けれど、何故か斎藤くんの表情は酷く苦しげに見えた。


「つまり・・・沙月さんにとって、その大事な人というのが・・・沖田さんだということなのですか?」

「きっとそうなんだと思う。だって斎藤くん。私、総司がいなくなってから一文字も書けなくなっちゃったの。」

「一文字も・・・?」

「うん・・・。土方さんと別れた時でさえここまでににはならなかった。むしろ意地でも書いてやろうって苦しみながらも原稿に没頭してたもの。でも、今は違う。総司がいなくなってから、一番大事だったはずの書くことすらも意味の無いものに思えてきてしまったの。」


溜息と共にそう言って見せたら、一瞬驚いたように目を見開いた斎藤くんはそのままゆっくりと瞼を伏せた。


「そうですか・・・。それほどまでに・・・」


独り言のようにそう呟き、そしてどこか寂しげな笑みを見せる。


「沙月さんの心は、いつの間にかすっかり沖田さんに奪われてしまっていたのですね」

「・・・ううん、違うよ」  


Posted by rarajier at 11:30Comments(0)